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西宮市の内科|石塚ファミリークリニック-院長ブログ|14 ホッとする話

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14 ホッとする話

外来診察や在宅診療で患者さんより“ホッとする”話を聞くことがある。
先日、往診での話。お母さんより患者さんのお兄さんの話があった。
お母さんの実家が九州であり、そこに住んでおられるお父様は余命が限られた末期癌で療養されているところだった。
その兄が大学受験を迎え、志望校を祖父の実家に在る大学を目指し見事に合格し、今春より祖父の家に同居し通学することになった。お孫さんと同居することに祖父も大喜びをされ、孫に通院を付き添われたり、リハビリに励んだりと数か月間ではあったが最後の人生を謳歌され、父の最後は幸せだったようだという話を伺った。

 

祖父と孫のイメージイラスト私はそれを聞いて”そんなことがあるんだ“と驚きながら、その数ヶ月間を想像してみた。
患者さんの両親は九州出身の方ではあるが長く関西で暮らしているので、祖父はまさかお孫さんが九州にいる自分の家に同居するとは思っていなかったであろう。
母親の話によると同居後から孫と暮らすことで自宅で引きこもりがちだった父親がみるみる元気に振舞い、病院にも積極的に通院し、嫌な抗癌剤投与も一生懸命に治療を受け入れていたと伺った。
祖父が限られた命の中で最後に孫と一緒に暮らすことがどんなに嬉しかったのだろうと思うと、私自身までが心が揺さぶられ暖かい気持ちになり、また人の運命と生きる力のすばらしさを感じずにいられず、母親と一緒に喜んで話をしていました。

 

またある時、別の往診患者さん宅のこと。高齢者夫婦の在宅診療を受け持ち、奥さんは軽度の認知症を患っている。
この夫婦は福島県の出身で診察中の夫婦の会話は福島弁の訛りやイントネーションがでており、その会話を聞いていると少しかわいく、安心感を覚えるのだが、私が帰るときだけは、奥さんが”おおきに”と関西弁の一言がでる。
このことに気づき、次回の帰宅時にはなんて言われるのだろうと楽しみになり注意をしていたのだが、やはり診察中の夫婦の会話は福島弁で帰宅時は大阪弁となる。
本人に伺ったことがあるが、なぜそこだけ関西弁なのか意識していないと言われる。おそらく長い関西生活の環境が無意識の中で話をする相手によって最適の言葉を選択することを覚えていったのであろう。

 

私も同じような経験がある。東京の大学病院に15年ほど勤務していたのだが、患者さんが関西人だとやはり会話の最後には関西弁となり患者さんから指摘されたことが何度かある。
誰でもどこに住んでいても故郷への回帰とその土地への適応にうまく順応しながら年をとっていくものだなとつくづく人間の生活力に感心する。

 

またある時、外来診察中に患者さんから、毎日散歩もしているのだがそれでも一日の時間を持て余しているという話を聞いた。
最近、私は週末に時間があるときは料理をつくることを始めた。今まで料理をしたことがなかったが、妻に教えてもらいながら作ってみると実に面白い。
男性が料理をしているイメージイラストカルボナーラ、ナポリタン、炒飯、上海焼きそばなど簡単なものしか作れないが、料理も手順が重要であると実感する。
用意する材料やその量、入れるタイミングが重要で間違えば出来栄えに反映する。
奥さんには必要ない調味料が増え続けて困ると不満を言われ続けているが作ると喜んで食べてくれる。
この経験を生かしてその患者さんに、”料理でも始めたら奥さんに喜ばれるよ“というと”先生、何を言ってるの?“”男子、厨房に入らずでしょう“と言われた。
正直この言葉を聞いてびっくりした。世代が変わるとやはり生活での考え方や常識も変わるのだ。
”そう言わずに一度作ってみたら“と言ったが一笑されてしまった。しかたがないので”では、散歩の時間を増やしてね“と切り返すと患者さんも納得した様子であった。
ちなみにこのことわざも久しぶりに聞いたので調べてみると”君子は庖厨を遠ざく(君子は憐れみが深いので、動物が捌かれる姿が見えていたり動物の悲鳴が聞こえたりする厨房に近づくことは忍び難い)“が語源であり現代とはかけ離れた環境のように思えるのだが。ただ、診察での会話の相違も楽しいものである。

 

またある患者さんは、孫にランドセルを買いに行ったら、その値段と種類に圧倒された話をされたことがあった。
私は3人兄弟の末っ子でいつも兄のお古が回ってきて嫌々ながら使ったことを思い出したが、今のランドセル市場は相当なものである。その患者さんは価格にびっくりしたことを言いながらもニコニコされていた。
患者さんの購入風景を想像しながら、ゆくゆくは私も孫にランドセルを買うことができたら楽しいだろうなと思いを募らせゆっくり話を聞いていた。

 

外来でも往診でも患者さんの診察で、病気以外の話も実に楽しく、その話の中で患者さんの人となりや生きてきた環境に触れることがある。そのような話が私の”ホットする時間“となる。やはり会話は楽しい。

著者:石塚ファミリークリニック 
院長 石塚 俊二

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