血液中にANCAと呼ばれる自己抗体が出現し、
各臓器の細い血管の炎症をおこす病気がANCA関連血管炎です。
血液中に抗好中球細胞質抗体(ANCA)と呼ばれる自己抗体(自分の体の構成成分に対する抗体)が出現し、各臓器の細い血管の炎症をおこす病気がANCA関連血管炎です。
ANCA関連血管炎には、顕微鏡的多発血管炎、多発血管炎性肉芽腫症(旧Wegener肉芽腫症)、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA、旧Churg-Strauss症候群、アレルギー性肉芽腫性血管炎)の3つの疾患が含まれます。
顕微鏡的多発血管炎は60~70歳代、多発血管炎性肉芽腫症、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症は50〜60歳代の発症が多いと言われています。
顕微鏡的多発血管炎は50~60歳以上の高齢者に多く発症します。
難治性血管炎に関する調査研究班のデータベースでは、発症時の平均年齢女性は71歳でした。女性にやや多いと言われています。
多発血管炎性肉芽腫症(旧Wegener肉芽腫症)は、男女比は1:1で明らかな性差は認められていません。
推定発症年齢は男性30~60歳代、女性は50~60歳代が多いようです。
アレルギー性肉芽腫性血管炎は、40~70歳に好発し、実際の患者の平均年齢は55歳くらいです。男女比は1:1.7でやや女性に多い病気です。
アレルギー疾患(ほとんどが気管支喘息、時にアレルギー性鼻炎)を持っている方に発症します。
アレルギー疾患は治療に難渋している場合が多く、経過中に血液中に好酸球の増加がみられます。これらの症状を数年間繰り返した後に、血管炎が発症します。
顕微鏡的多発血管炎は、原因はいまだに不明です。しかし、好中球の細胞質に含まれる酵素タンパク質であるミエロペルオキダーゼ(MPO)に対する自己抗体(抗好中球細胞質抗体;ANCA)が高率に検出されることから、他の膠原病と同様に自己免疫異常が背景に存在すると考えられております。
多発血管炎性肉芽腫症の患者さんには、ANCAの中でもPR3-ANCAという自己抗体が見いだされ、病気の発症や進行に深く関わっていることが考えられています。
すなわち、PR3-ANCAが、風邪などの上気道感染の後に炎症によって産生されたサイトカインとともに好中球を活性化し、各種の悪害因子を放出し血管炎や肉芽腫を起こすと考えられています。
全身症状として発熱、全身倦怠感、食思不振、体重減少、筋痛、関節痛などが出現します。
顕微鏡的多発血管炎は60~70歳代、多発血管炎性肉芽腫症、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症は50〜60歳代の発症が多いと言われています。
皮膚では、下肢に紫斑(圧迫しても色が消退しない小紅斑)が出現し、触ると多少凸凹しています。
また、網目状の模様を手足に認めることがあります。
神経の血管に炎症がおよぶと、手足のジンジンしたしびれ、痛みを訴えたり、スリッパが脱げやすい、転びやすいなどの筋力低下の症状を訴えたりします。
眼や鼻にも症状が出る場合があります。眼の痛み、充血、視力低下、眼球が突出するなどの症状が見られます。
耳では、耳閉感、中耳炎、難聴、耳鳴り、めまい、鼻では、副鼻腔炎、鼻閉、臭いのある鼻汁、鼻血、鼻の痛み、鼻の変形などが出現することがあります。
気管支・肺の症状として、咳、血痰、喀血、ゼーゼーする呼吸音、声が嗄れるなどの症状が見られます。
腹部(胃腸)の血管に炎症がおよぶと、腹痛、圧痛、下痢、下血などが出現します。腎臓は初期には自覚症状は少なく、検診で血尿や腎機能低下を指摘され、受診の契機となる場合がしばしばあります。
好酸球性多発血管炎性肉芽腫症では、気管支喘息や好酸球性鼻ポリープなどの既往、合併を認めます。
尿検査、血液検査、画像検査を行います。
尿検査では、血尿・蛋白尿・円柱を認めます。
血液検査では、貧血、血小板増多、赤沈亢進、CRP・血清クレアチニン上昇、ANCA陽性を認めます。EGPAでは好酸球が著しく増加します。
また、単純X線写真、高分解能CT検査、MRI検査、超音波検査などによって、各臓器の病変の有無を調べます。
わが国のANCA関連血管炎では肺の病変の出現頻度が高いため、極力、胸部単純レントゲン写真、胸部高分解能CTを撮影して、肺の状態を細かく評価します。
さらに、血管炎の症状が出ている臓器の状態を調べる検査(上部・下部消化管内視鏡、呼吸機能検査、気管支鏡検査、神経伝導速度、髄液検査、など)を行う場合があります。
血管炎の診断には、体の組織の一部を取って調べる検査(生検と呼びます)が非常に重要です。
腎臓の血管炎が疑われる場合には、腎生検を行い、腎糸球体や尿細管の状態を調べます。
皮膚に紫斑などの症状がある場合には、皮膚生検を行い、皮膚および皮下組織の血管の状態を調べます。
下肢の痺れや運動障害がある場合には神経生検、筋生検を行い、神経や筋肉の血管の状態を調べます。症状と検査結果を組み合わせて、3つのANCA関連血管炎のどの疾患かを診断します。
血管炎と類似した症状を呈する疾患が多数あるので、同時にそれらの疾患でないことも確認します。
治療は副腎皮質ステロイドと免疫抑制薬(主としてエンドキサン®)を使用します。副腎皮質ステロイドとリツキサン®による治療も同様な効果と安全性が示されており、免疫抑制薬が使用できない、あるいは効果不十分の場合、重症な再発の場合などに使用します。
血管炎の症状、検査の改善をみながら、ステロイドを減量し、エンドキサン®からアザニン®またはイムラン®に切り替えて、治療を継続します。
リツキサン®を使用した場合は、リツキサンを6か月ごとに繰り返し、途中からアザニン®またはイムラン®に切り替えます。
個々の患者さんの病気の強さ、合併症、既往症などによって、治療内容を調節します。