関節リウマチは、放っておくと関節が変形する病気です。
一般に、骨や関節、筋肉など、体を支え動かす運動器官が全身的な炎症を伴って侵される病気を総称して“リウマチ性疾患”といいます。
このうち、関節に炎症が続いて、関節が徐々に破壊され、やがて機能障害を起こす病気が“関節リウマチ”です。
それは、外敵から体を守る免疫の異常によって、体の多くの関節に炎症が起こり、腫れや痛みが生じる病気とも言えます。
関節リウマチとよく似た病気に“変形性関節症”がありますが、この病気は関節を動かしたときに痛みが出やすいものです。
一方、関節リウマチは、腫れを伴って、じっとしていても痛いのが大きな特徴で、その痛みはよく“かみつかれたような痛さ”ともいわれます。
30~50歳代の女性
男女比は約1:3で女性に多く、好発年齢は30~50歳代で人口のおよそ0.3~1.5%程度であり、患者数は50万~100万人の患者さんがいると考えられています。60歳代からの発症も認められ、この場合を“高齢発症関節リウマチ”と呼んでいます。
高齢発症関節リウマチでは、男女の発症率に差はありません。
また、15歳未満で発症する場合もあり、これは“若年性関節リウマチ”と呼んでいます。
免疫系が自分自身を攻撃する
完全に病気の原因がわかっているわけではありませんが、遺伝的な要因に、出産や喫煙、感染症などの環境要因が重なって起こると考えられています。
細菌などのからの体を防御するシステムである免疫系に異常があることはよく知られています。このため遺伝子の何らかの異常か、感染したウイルスや細菌などの微生物の影響か、あるいはこの両方の組み合わせによって起こるのではないかと考えられています。
関節とは骨と骨の連結部のことで、2つの骨と骨の間のクッションをする役割「軟骨(なんこつ)」、それらを包む「関節包(かんせつほう)」と「滑膜(かつまく)」などから成ります(右図上)。
滑膜は薄い膜で、潤滑油の働きをする関節液を分布し、関節の中はこの関節液で満たされ、滑らかに動くことができます。
関節リウマチは、この滑膜に炎症が起こり、滑膜が増殖します。
その後、進行すると関節の中の骨や軟骨、腱が破壊され、関節が変形していきます。この関節リウマチに特徴的な“腫れと痛み”は、原因と考えられている免疫機構に異常が生じ、その結果関節に炎症が起こって生じるものです。
免疫機構とは、体内に侵入してきた細菌やウイルスなどの外敵を攻撃し排除するシステムで、人が生まれながらにもつ性質です。免疫機構が自分の体の成分や組織を外敵と誤り、攻撃して排除しようとします。こうした現象が関節に起こるのが関節リウマチです。
免疫機構の異常により関節の毛細血管が増加し、血管内から関節滑膜組織にリンパ球、マクロファージなんどの白血球が出てきます。このリンパ球やマクロファージが産生するサイトカイン(TNFα、IL-6など)と呼ばれる物質の作用により関節内の炎症がひきおこされ、関節の内面を覆っている滑膜細胞の増殖が起こり、痛みや腫れを起こし、関節液が増加し、軟骨、骨の破壊が進んでいきます。
特徴的な症状は、関節痛、関節の腫れ、朝のこわばりなどです。
また、関節リウマチの症状は“対称性”といって、左右両側の関節に現れることが多く、腫れている部分は柔らかいのが特徴です。
90%以上の方が手足の指の関節に症状を認め、他に肩、肘、足首などの痛みがでます。
特に上肢の関節に強い傾向があり、膝、足首では腫脹や熱感なども症状として多いのです。
手の指は、第1関節に症状が起きることはまれで、第2関節や指の付け根の関節に症状がでることが多いのも特徴です。
また、第1及び第2頸椎に亜脱臼をしばしば認められます。
パジャマのボタンが外しにくい
靴ひもやリボンが結びにくい
おはしが上手に使えない
ペットボトルのフタがあけにくい
TVのリモコンが押しにくい
ドアノブが回しにくい
家のカギがあけにくい
ハサミが使いづらい
歯ブラシがもちにくい
ホチキスが使いづらい
ある家系調査では、関節リウマチの3親等以内は発症する率は高く33.9%という報告があります。また、一卵性双生児の一方が関節リウマチであった場合には、15~30%の確立でもう一人も発症すると言われた報告もあります。病気そのものが遺伝するわけではありませんが、ある種の遺伝的背景をもった人に環境要因が加わることで発症するといわれております。
初期症状は、関節の炎症に伴うこわばり、腫れと痛み、熱感などです。進行すると関節の軟骨や骨が破壊され、関節の脱臼や変形などが生じるようになります。さらに進むと、日常生活や家事、仕事に支障が出て介助が必要になるなど、生活する上での機能障害が進行します。
かつては関節リウマチは症状がゆっくりと進行し、10年以上が経過してから関節破壊が生じると考えられていましたが、発症早期から関節破壊が起こることが分かってきました。
関節の腫れや痛みが軽度でも、関節の内部では炎症が続き、関節破壊が進行していることがあります(右図)。特に、発症2年以内に関節破壊が急速に進行するために、早期に発見して早期に治療することが重要となります。
ステージ Ⅰ(初期) | X線検査で骨、軟骨破壊がない状態 |
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ステージ Ⅱ(中等期) | 軟骨が薄くなり、関節の隙間がなくなっているが骨破壊はない状態 |
ステージ Ⅲ(高度進行期) | 骨、軟骨に破壊が生じた状態 |
ステージ Ⅳ(末期) | 関節が破壊され、動かなくなってしまった状態 |
クラス Ⅰ(ほぼ正常) | 健康な方とほぼ同様に不自由なく生活や仕事ができる状態 |
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クラス Ⅱ(軽度障害) | 多少障害はあるが普通の生活ができる状態 |
クラス Ⅲ(制限) | 身の回りのことは何とかできるが、外出時などには介助が必要な状態 |
クラス Ⅳ(不能) | ほとんど寝たきりあるいは車椅子生活で、身の回りのことが自分でほとんどできない状態 |
これまでは、長い間1987年の米国リウマチ学会(ACR)による分類(診断)基準が使われてきました。しかし、この基準では早期の患者さんの診断には適していませんでした。このため、2010年に米国および欧州リウマチ学会(EULAR)が合同で新しい分類(基準)を発表しました(右図)。この基準では、少なくとも1つ以上の関節で腫れを伴う炎症(滑膜炎)がみられ、その原因として関節リウマチ以外の病気が認められない場合に、
1.症状がある関節の数
2.リウマトイド因子(RF)または抗CCP抗体
3.CRPまたは赤沈
4.症状が続いている期間
の4項目についてそれぞれの点数を合計し、6点以上であれば関節リウマチと診断し、抗リウマチ薬を開始します。日本リウマチ学会でもこの基準が検証され、早い時期での関節リウマチ診断に役立つことが示されました。ただし、関節リウマチ以外の病気でも合計6点以上になってしまうことがあるため、点数をつける前に他の疾患がないか十分に検討する必要があります(表参照)。
●新基準使用時のRA鑑別疾患難易度別リスト
関節症状を主訴に受診する患者集団における頻度、RAとの症状、微候の類似性、新分類基準スコア擬陽性の頻度などを総合して、新分類基準を用いる際にRAと鑑別するべき代表的疾患を鑑別難易度高・中・低の3群に分類した。
疾患名は日本リウマチ学会専門医研修カリキュラムに準拠した。
鑑別難易度高:頻度もスコア擬陽性になる可能性も比較的高い
鑑別難易度中:頻度は中等または高いが、スコア擬陽性の可能性は比較的低い
鑑別難易度低:頻度もスコア擬陽性になる可能性も低い
鑑別難易度 | |
高 | 1.ウイルス感染に伴う関節炎(パルボウイルス、風疹ウイルスなど) 2.全身性結合組織病(シェーグレン症候群、全身性エリテマトーデス、混合性結合組織病、皮膚筋炎・多発性筋炎、強皮症) 3.リウマチ性多発筋痛症 4.乾癬性関節炎 |
---|---|
中 | 1.変形性関節症 2.関節周囲の疾患(腱鞘炎、腱付着部炎、肩関節周囲炎、滑液包炎など) 3.結晶誘発性関節炎(痛風、偽痛風など) 4.血清反応陰性脊椎関節炎(反応性関節炎、掌蹠膿疱症性骨関節炎、強直性脊椎炎、炎症性腸疾患関連関節炎) 5.全身性結合組織病(ベーチェット病、血管炎症候群、成人スチル病、結節性紅斑) 6.その他のリウマチ性疾患(回帰リウマチ、サルコイドーシス、RS3PEなど) 7.その他の疾患(更年期障害、線維筋痛症) |
低 | 1.感染に伴う関節炎(細菌性関節炎、結核性関節炎など) 2.全身性結合組織病(リウマチ熱、再発性多発軟骨炎など) 3.悪性腫瘍(腫瘍随伴症候群) 4.その他の疾患(アミロイドーシス、感染性心内膜炎、複合性局所疼痛症候群など) |
朝のこわばりと、特に指、手関節、肘、膝、足関節など主に全身28か所の関節の腫れ、痛みを確認します。
■リウマトイド因子(RF)
関節リウマチ患者の80~90%で陽性となります。
関節リウマチの炎症に関係します。
■抗CCP抗体
RFよりも早期から陽性になるとされており、診断のつかない早期例には抗CCP抗体が検査の適応になります。
■CRP
肝臓で作られるたんぱく質です。体に炎症が起こると増加し、炎症の程度を示します。
■ESR(赤沈)
細い管の中で赤血球が沈む速度のことです。
■MMP-3
軟骨を構成する成分を壊してしまうたんぱく質です。
関節内の炎症が強いと増加します。
■エックス線
関節のエックス線写真にて関節隙間の狭小化、骨びらん(骨が一部欠けていること)、強直(骨と骨が癒合していること)、骨粗鬆などを確認します。
■関節超音波(エコー)、MRI
最近はエックス線ではわからない変化がMRIや関節超音波検査で検出でき、早期から診断し治療することができます。