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当クリニック院長 石塚俊二が医療を中心に情報発信
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05 施設での診察

僕は在宅医療で自宅に向かう往診とは違って、週一回のペースで看護師さんと診療所の近くの施設に出向き往診をしています。数名の患者さんの部屋を一人一人回って診ていくことになる。個人への往診と違って、全員の処方箋などたくさんの準備があり、行く前は少し慌ただしくなります。

 

施設での診察でカンファレンスをしているイメージイラスト施設に着くとまず当院の看護師、施設の看護師、薬剤師と医師が集まり、往診患者さんの状態を施設の看護師さんからしっかり聞くことから始まります。施設では看護師さんは看護、介護の達人である。通常、病院では看護師さんは看護のみに従事するが、施設は患者さんの家でもあるので医療面はもちろんのこと、その患者さんの毎日の話す会話の内容の変化や食事の嗜好、施設内での歩き方、入浴方法など生活すべてを把握しており、まるで母親のような存在である。その母親から、1週間の患者さんのことを一人一人聞くのは楽しい時間となります。

僕自身が聞かないで、根掘り葉掘り聞きだすのは少し恐縮もする。例えば、施設内で認知症による不穏や介護への抵抗が強く精神科の先生と相談して数か月前には一時的に入院加療を強いられた長く入所している患者さんがいました。

往診時にはいつも近寄って来られニコニコと僕に話しかけてくれたこともあり、看護師さんに“ずいぶん落ち着いてよかったですね”と伝えると、看護師さんから“先生の見ている状態はたまたまのことで、夜間などの不穏は続いていますよ”と言われた。その時は“あっ、しまった”と判断が間違ったことに気づくことになり、それを看護師さんが教えてくれる。大変ためになる。

 

また、施設内では各階に、患者さんが集まって食事や話ができる広いスペースがある。僕は往診の際には、個人の部屋での診察だけでなくこのフロアでたくさんの患者さんの顔を見ることにしている。

“いつも同じ言葉の独り言をつぶやいている患者さん”

“いつも僕の顔を覗いてニコッとしわを作る患者さん”

“いつも同じ場所で下を向いて目をつぶっている患者さん”

など患者さんにとっては日常であるこの光景をしっかり頭に焼き付けるようにしている。

いつも思うことだが、全員が別々の出身をもち、色々な人生を歩んできた。そして、この患者さんたちが若い時には、誰一人予想した人はいないこの施設に入り天寿を迎えようとしている。

僕はこの患者さんの最後を担う医師であると思うとフロアの光景を眺めながら強い責任を感じる。

 

認知症の人が多いのだが、認知症になってもこころは伝わる。こころを伝えることはできるのだ。ひととひととの関係は終わることはない。夜間に不穏が持続し、昼間に、ニコッとしてくれる認知症の患者さんも僕たちへの心配りを十分に感じさせてくれていると感じることができる。言葉にできなくても心に触れ合うことができると思う。やはり人間はすごい。

そしてこの施設での日常の変化は患者さんの状態の変化でもある。

つい先日のこと、ある部屋の認知症の患者さんの食事量が減ってきた。その患者さんは、必ず血圧を測定した後に、“もう一回測って”と言うのが日常であったが、ある往診時からその言葉を言わなくなった。だんだんと食事量も減りからだの動きが悪くなってきたと施設の母親である看護師さんより連絡が入った。

“どうしましょうか。施設で療養を続けますか。一度、入院できるところを探しましょうか”と家族の娘さんに尋ねた。

娘さんは、当初入院を考えていた。病院にお願いしたら、点滴や鼻腔栄養か胃瘻になるだろう。それがしあわせだろうか。

可能性にかけて今の施設の“家”での日常を続け、看護師や職員での介護力に頼るほうがいいかもしれないと考えこのまま施設で過ごすことを決断した。

 

老人ホームのイメージイラスト“施設でなじみのなかの最後なら在宅死と同じではないでしょうか”と伝えながら娘さんと話し合った。

病院や先端医療現場では、いのちへの判断は迷うことが多いが、施設での認知症等のいのちの判断は、どう対応したらいいのか家族とも話し合いながらも迷いに迷う。僕自身もだんだんと年をとってきて、終末期の患者さんが自分であればと思う気持ちも強くなり割り切れなくなってきた。このいのちとどう向き合えばよいのか。こんな場面では医学は科学の世界ではない。ぼくにできることは少ない。ただできるだけ患者さんに会い、自然な姿を見守り続けた。

いつも施設にいると看護師さんや介護職員の優しさに感動する。医療の世界よりもっと生活に根付いたプロの精神がほんとうに素敵だと思う。その後、施設職員の介護とともに天寿を全うされた。

“いつもの施設にいて家族のもとで自然な最後でよかったですね”と娘さんに話した。

“先生にそう言われると、これでよかったんだと思います”と言われた。

この言葉で自分の迷いが少し救われた気がした。施設でも在宅でも病院でもひとのいのちは自然なものであると思うし、いのちも会話もかざらない自然がいちばんよいと思う。

著者:いしづかクリニック 
院長 石塚 俊二

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