07 小児の往診
僕は、成人在宅医であるが2006年より少数の小児の在宅医療を受け持ち、現在も続けている。在宅医療を始めて2年目に小児在宅の依頼がありました。
最初は、(1)小児在宅は小児科医がやったほうがいいのでは、(2)成人在宅の経験は役立つだろうか 、(3)お母さんに認めてもらえるだろうか、(4)スタッフは理解してくれるだろうかなどの思いがありました。
ただ、開院時より留学中に米国でみた家庭医(FAMILY PHYSICIAN)を目指し、成人だけでなく地域に必要な在宅医療を提供したいという思いから始めることにしました。
最初の受け持ち患者は2歳の男の子でした。
脳炎後で意識が戻らない状態で自宅に帰ってきました。初めて訪問診療に伺った時の印象は、(1)こんなに重症なの?人工呼吸器が装着され、栄養は胃瘻(胃に穴をあけそこから栄養剤を流す)での経管栄養ではないか、(2)集中治療室(ICU)で診るような成人患者と同じぐらいだ、(3)どこから診ればよいのか、(4)すぐに再入院するのではと思い、クリニックに戻る途中では“断ればよかった”と意気消沈して帰った記憶があります。同時にこの時に成人在宅医の弱点を考えるようになりました。特に3つのことに気がつきました。
(1)家族とのかかわりかた、(2)重症児の病状や合併症の把握、(3)医療ケア、水分・栄養管理、薬剤投与などの小児独特の治療面についてです。これらの深い理解が必要で一つ一つ確認して、この3つの弱点を克服していけば小児も持つことができるのではないかとも考えました。
そこで、まず在宅開始の確認事項として、在宅開始前に僕は家族に“小児科のように細かい治療方針は立てられないし、経験もありません”と正直に話すようにしました。同時に、ただ、(1)困ったときはいつでも一緒に考えます、(2)病院主治医と話し応急処方ができます、(3)訪問看護などと連携しチームで診療します、(4)予防接種は自宅でできますなどと、できることできないことをはっきり伝え理解してもらうようにしました。
そして次に小児の病状については、疾患の病態と自宅での医療ケアの2つに分けて考え、病態は成人疾患とオーバーラップさせて考えて、また医療ケアに当たる人工呼吸器時の気管チューブや胃瘻交換などできる手技はすべて自宅で行うようして小児の在宅医療を進めていきました。このようなスタイルで小児在宅医療の経験を重ねてきました。
こうして2006年より現在まで15年間小児在宅医療を続けています。
先述の脳炎後のお子さんは、開始から14年間の在宅医療を継続しました。その後は、父親の転居を余儀なくされ東京に生活を移しました。転院先は僕が以前に勤めていた東京の大学病院に連絡し受け入れが可能か相談しました。
転院前に、大学病院まで出向き病状を説明して受け入れてもらうことが可能となり、現在も自宅で元気で過ごしています。
成人と比較して小児在宅医療はいくつかの特徴があります。成人在宅は、(1)自宅でのつながりが主となる場合が多いですが、小児在宅は、これに加えて、(2)暮らしのつながり、(3)地域のつながり、(4)未来のつながりまでが医療であり、生活と時間軸の両面で考えていく必要があります。
例えば、自宅でのつながりとして、在宅医療の対象はその患者だけでなく家族も含めなくてはいけないと思います。
兄弟の病気や祖父母の介護などでも患者の治療に大きく係わってきます。
また、暮らしでは小児在宅は生活が主人公であり医療が最優先ではありません。往診を通じてその家族の生活や生きがいや人生での大切なものが何であるかを医師は知る必要があります。さらに子どもは成長していきます。成長によって地域とのつながりを必要とするわけですが、この場合、社会的な健康が大切であり、その子が地域から必要とされる存在となることを目指して医療を考えます。
自宅だけの安定だけが、その子にとってベストではないと考えます。また、子どもには未来があります。0~16歳で在宅医療は終了するのではなくその子の将来の変化を予想しながら、繰り返し悩み続ける家族の気持ちを共有しながら、その意思決定をサポートしなければならないと思います。
成人在宅は生命の安全や健康維持の治療が主となる場合が多いですが、小児は成長する中で社会生活や未来を見据えて医療を考えていく必要があります。
近年、医療ケアの依存度が高い小児患者が急増しております。2018年度で、20歳未満の患者さんは7000人程度と言われております。成人在宅医にとって小児在宅医療は、その特殊性から敷居の高い分野と思われている。しかし、小児在宅医療の重要性を理解し、現在の成人在宅医療の現状を工夫すれば、僅かではあるが受け入れられる小児在宅患者がいることを成人在宅医は考えなければならない。
在宅医療は、外来、入院に次ぐ第3の医療と言われています。生活をベースに医療を柔軟に使い、生活を楽しむことに成人も小児もない。在宅医療を大きく捉え成人在宅医も小児を受け止められるぐらいの在宅医療の専門性を高める必要があると思いながら、小児の訪問治療に孤軍奮闘している毎日です。頑張るぞ-。
著者:いしづかクリニック
院長 石塚 俊二