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西宮市の内科|いしづかクリニック-院長ブログ|10褒めあう楽しさ

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当クリニック院長 石塚俊二が医療を中心に情報発信
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10 褒めあう楽しさ

お年寄りの患者さんを診察していると“先生のおかげで長生きできる”“ありがとう”“先生はきちんと休んでいるの”など、褒められ感謝やねぎらいの言葉とかけられる時がある。
もちろんこれまで元気に過ごされたのは私の力ではないことはわかっている。その患者さんの長い人生からすると私との時間はほんの一瞬に過ぎない。
なので、そのまま受け取ることはできないが、そのような言葉をかけられるとなぜか嬉しくなる。そして診察もより明るく楽しくなる。人は褒められると力が湧いてやる気がでてくると思う。
また、同時にお年寄りの患者さんの心の豊かさを強く感じる。診察中会話をしているイメージイラスト

 

今、自分が患者になって、自分より若い医師に診てもらってもこのような言葉は私にはまだ言えない。なぜこのような会話をしてくれるのだろうかと考えさせられることが多い。
私にこのような言葉をなげてかけてくれているのだが、お年寄りの患者さんの多くはいつも自身の病気と向き合わないといけないし治さなければならない持病を抱えている。
高血圧や糖尿病などの病気に毎日決まった薬を飲まなくてはならない上に、首の痛み、腰痛、膝痛などこの診療所まで来ることもやっとのことも多々ある。この状況の中でも相手に思いやりを忘れないこの言葉は、これまで人が一生懸命に生きてきたからこそたどり着ける境地だと思い、その人の人生に敬意を感じずにはいらない。
この診療所に来られているお年寄りのすべての人が“今を生き”ここまでの人生を少しずつ積み重ねてきた。

 

ある患者さんは、若くに夫を亡くし自分の力で子供を養いようやく子供が独立したときには癌を患い、またある患者さんは、戦争中の防空壕を経験しその戦火を潜り抜けたが、その音の怖さからMRI検査が受けられない話や、さらに農家に嫁いできたが農作業が嫌いで慣れるまで何年も費やした話など、患者さんは、これまで多くの岐路を経験し、自分の心に寄り添った決断や行動をしながら“今を大事に生き”ここまで生活してきた。
この“今”の蓄積を人生として歩んでこられた患者さんが目の前に座って、他の人への思いやりや感謝を忘れずに、このような言葉を私のような年下の医師になげかけているのだと思うと身震いすることがある。だから僕もお年寄りの患者を褒めないわけにはいられない。

 

治療において、人は食事、運動、内服の継続など指摘だけでは変わらないのが常である。
できることできないことがあって当然だろうと思う。検査や血圧の値がよければ“良かったね。さすが〇〇さんやわ”“毎日散歩をしていて偉いわ。”“いきいき体操を頑張っていますね、やりますね”“次回も体操に参加してよ”などゆっくり世間話を交えながら話すことにしている。
褒めて褒めてその気になってもらってから、治療についてひとつのお願いをする。こうすることで診察の空気が和んでくるし、患者さんも治療を受けやすくなる。僕も褒めてもらっているのだから、こちらもそれ相応に褒めるとお互いの力が抜けてこころも柔らくなり、患者さんの不安も少しずつ緩和されていくのを感じるのが好きである。
褒めあうことで会話の中での笑い、ユーモアが引き出されゆっくりした時間となる。これは在宅診療でも同じで、家族、患者さんにできるだけ褒めることを見つけながら訪問診療にあたっている。
介護しているひとはくたくたになっていることが多い。“このようなしなければ、いつまでにしなければ”と気持ちがいっぱいいっぱいになっている。それを心のマッサージでときほぐすようにする。

 

先日、夫が認知症、妻が重度の関節リウマチの寝たきりで私が約6年間在宅加療をしている方の息子さん2人と話しをした。その息子さんたちは、2人ともに関東に居住しているにも関わらず、6年間、毎週2人一緒に車で実家に戻り週末介護を約6年間続けている。本当にすごいことだとただ感心している。
時に、冬場の高速で帰る途中に岐阜で猛吹雪に会い、車中で1泊したことや車が故障して数時間も修理にかかったことなど聞いて、僕も東京に15年住んでいたのでこの600Kmの東京-大阪間の距離がいかに長いことやそれを毎週行っていることを十分に理解しても頭がさがる思いしかない。
笑顔の老夫婦イメージイラスト介護はヘルパーさんや看護師もかかわっているので、”さぼってもいいですよ”とまた別の日には”そこまでしなくてもいいですよ”と何度か話し合たこともある。それでも、息子さんたちに週末介護を行うことについて尋ねてみると”両親はほんとうによくしてくれた。だから生きている間はできるだけのことをしてあげたい。それだけです”と言われる。
逆に、認知症で徘徊もすることがあるお父さんではあるが、息子さんのことを聞くときはいつも”息子はよくしてくれる、息子はよくしてくれる”といつも2回満面の笑みで答えられる。
お母さんに尋ねても同じ答えが返ってくる。息子さんたちは自分たちの大事な用事もあると思われる週末を費やしても両親を介護し、両親もそれを待っている。両者は不自由なのに明るい。両者はお互いを認め、感謝しているから褒めあうことが自然に表される。
「情けは人のためにならず」というが”褒める”こととは大いに関係があると思う。
ほめてもらうと”ほめてもらったから、もっとがんばろう””期待にこたえたい”と思って気持ちが上がる。
褒めることは外来診療、在宅医療などすべての治療に必要な魔法の言葉である。さあ、今日も、楽しい会話に導けるようにほめあう言葉で外来診療、在宅訪問に向かいます。

著者:いしづかクリニック 
院長 石塚 俊二

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