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西宮市の内科|いしづかクリニック-院長ブログ|15 患者さんとの最後の会話

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15 患者さんとの最後の会話

外来や在宅で治療している高齢の患者さんが徐々に体が悪くなってきて終末期に入ると私はいつも患者さんとの最後の会話を意識してくるようになる。また同時に、患者さんも自分の死を意識しているような言葉で話されているようなこともあります。

高齢者夫婦のイラスト先日、肝臓疾患で終末期を迎えていた患者さんが自宅看取りの方針だったので訪問診療を行っていました。
若いころから大手メーカーのエンジニアでいわゆる戦後の日本の技術を支えた猛烈な仕事人間の方で自宅には自分で作られたスピーカーやアンプなどの音響製品に囲まれて、お元気な時にはその製品について目を輝かせて説明してくれていました。
奥さんもこれまでの仕事ぶりを旦那さんと同じように説明をされて、その人生を長年理解し支えてこられたのだなと感じていました。それからしばらくたったある日、予後数日の状態となった定期訪問時に、話すのもやっとの状態でしたが、
“先生、私は仕事が大好きでこれまで忠実に仕事を向き合い、色々な製品を作ってきました。時には一般の社員の時でも参加できないような大手の役員さんに特別に認められ会議に参加し、製品の説明や助言をして受け入られたこともありました。本当に楽しかったです。”
在宅酸素を吸いながら息があがるような状態でしたが、興奮するでもなく、つじつまが合わない話をするでもなく、ただ素直な思いを口にしておられました。
そんな患者さんを見て、“きちんと会話できるのは今日が最後だな”と感じました。患者さん自身も同じように感じているから、昔話をたくさんしておられるのだろうと思い、ただ傍らで耳を傾けていました。
それから次の定期診療の時には意識が落ちて会話することが難しくなり、奥さんが“先生よ”と言われると“うー”と答えられるのみで、その翌日にお亡くなりになりました。

 

そして、先ほどの患者さんとの最後の会話について考えてみると、話を聴いてほしい時、終末期の患者さんがわれわれ医療人に求めているのは、実はそんな難しいことではないと思います。
患者さんの傍らに座る、患者さんの目や表情に注意を払う、うなずく、また相づちをうつ。話を聴いてほしい患者さんのお気持ちに寄り添い、満たすのはまずこのような相手の話をしっかり聞いて受け止める事が必要ではないかと思います。
患者さんの目を見て話しを聞き、静かに相づちをうつ。そして話がつきるまでゆっくり聴く。
意外に最後の治療は聴診器、血圧計などでの診察や医療器具が必要ではなく、人と人の会話だけで十分だと痛感しています。

 

患者さんの話を聞いている医師のイラストこちらも理由はわかないけど、診察の中でこれが最後の会話になるかなと思う不思議な感覚を体験し、この感覚を大切にしている。最後の会話では想像以上に間隔があり会話の流れもゆったりなので、思いのほか時間がたったように感じることが多い。中には1時間ぐらいじっくり話を聞いたと思って時計を見たら実際は15分ぐらいしかたっていないかったこともよくある。
おそらく自分もこの会話は特別なのもだと体で感じて自分のすべてがその話に注ぎ込まれ、時間の感覚を失われてしまうのであろうと思う。
また、終末期の患者さんの話を聴く上で何よりも大切なのは十分な心のゆとりであるとも思う。つまり、予後が限られた患者さんだから、患者さんの話にしっかり耳を傾けるには“今日はじっくり聴こう”と最初から心に決めておくようにしている。
そうすることで後のことが気にならなくなり、心に余裕が生まれることになる。
患者さんにとって終末期は人生に一度しかないのです。先ほどの15分に患者さんの人生のすべてを集約した話がそこあるのです。そのように思うとすべてを受け入れて話をすることができるようになります。
毎回の訪問診療での会話やいつ最後の会話になるか、また、その受け入れができているか。今日の会話は患者さんの想いを受け止めたことができているか、今日が最後の会話になるかもしれないということを自分は感じているか。
そんなことを心に思い、診療をおこなうと会話が楽しく言葉の大切さや心のゆとりを持つことができると改めて思います。

著者:いしづかクリニック 
院長 石塚 俊二

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