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西宮市の内科|いしづかクリニック-院長ブログ|19 在宅家族のピンチ

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19 在宅家族のピンチ

在宅診療チームのイメージイラスト

在宅診療は、患者さんを支えている家族、在宅医師、病院医師、看護師など誰が欠けてもいけないなとつくづく解ったことがありました。
先日、1歳児の在宅患者さんの母親から自身に発熱がでているがどうしたら良いかと相談を受けました。
まずは、母親の状態を確認するために母親の往診に向かいました。
ご両親ともにお仕事を持ち多忙を極めており、主にお母さんが栄養剤の注入、痰の吸引など患児のケアを担っていたために、まずは母親の安静を保つこと、またお父さんにお子さんのケアをすべて担っていただくことになった。

 

翌日に父親から連絡が入りました。訪問看護に協力をお願いしようとしたが、このご時世では家族内で発熱者がいる時には訪問は中断されるとのことで一人では仕事と奥さんと患児のケアを両立することはできないと相談を受けました。
このために、患児の病院の連携室と病院主治医と相談し、お子さんのレスパイト入院を話し合いましたが、すぐの入院の受け入れは難しいとのことでありました。
これをお父さんに伝えると、やはり現況の生活維持は難しいとのことで、二人で次の戦略を考えました。
僕が安易に次の案を提案しました。そうだ、お子さんの入院が難しいのであれば、お母さんに入院してもらい在宅の負担を軽減させようと、父親に説明し母親の入院先を探すことにしました。しかし、これがなかなか難航しました。
現在のご時世もあり、発熱患者を受け入れてくれる病院は少なく入院先がなかなか決まりませんでした。

 

これもダメかとがっくりして再びご両親に説明。お母さんは発熱しながら僕の進まない話を聞かなければならないし、お父さんはがっくりと肩を落とす状況である。当然である。何とかしなくてはならない。
この経過中もお父さんは妻の看病と患児のケアとさらに兄弟もいるのでその子のお世話とさらに仕事も両立させなければならない。聞くだけでめまいがしてくる。僕もさらに次に考えねばならず、めまいがしてきた。
そして考えた次の戦略は“行政から”と決めた。

 

すぐに福祉センターの何人かにできるだけ詳細に事の成り行きを説明し、行政上からの解決策を相談しました。
“捨てる神あれば救う神あり”とはこのこと。担当の方が状況をより深く理解していただき、すぐさま再度病院と入院の交渉にあたってくれた。この交渉が大きく事態を変化させ、翌日すぐに患児の入院が決まり転送となりました。
僕も再度病院の主治医に連絡して直近の状況を説明し、感謝の意を伝えようやく事態の収束となった。入院している子供のイメージイラスト

 

これまで在宅医療に深くかかわらない病院勤務の時は、病気を治せないと医師は患者さんを幸せにできなと思っていました。時には患者さんに“これ以上は回復の余地がありませんのであきらめてください”と言うだけの一方通行の説明や会話をしてきました。しかし在宅医療を始めてからは、病院勤務の時に言っていた言葉には、患者さん自身の人生が残念に感じさせるのではと思うようになりました。
在宅の患者さんや患児の病気は多くは進行性で治癒されない場合が多い。それでも日々、患者さんとともに家族は楽しそうに家で暮らしており、それを見ると人は幸せに生きる力があるんだと感じるようになりました。
在宅医はこの生活の流れをしっかり見守ることが必要であると思う。

 

今回のように生活の妨げは、患者さんの病気の変化だけでなく、すぐ傍にいる家族の生活の変化でも起こることも多くあります。このことを考えると在宅医のやるべきことは、患者さんと家族が何を求めているか、何をしたいかを一緒に考え、その達成に向けて実践することも大きな役割だと思う。
大切なのは患者さん、家族と同じ目線に立って考えること、想像することができるかが重要であると思う。

 

患児を包む家族を見守りサポートするのも在宅医の仕事であると思う。
今回のドタバタのように決して完璧なストーリーで収束したわけではないけど、最後に患児の入院が決まりお母さんの回復を見守り、父親のホットした声を聞くと患児の病気を治療したわけではないけど何か一仕事したような気分になり嬉しい気持ちに浸ります。

 

人の幸福の絶対値はなく、その人ごとにどのくらいの感動を感じられるかだと思う。その感動は、病によって生活に制限が加えられ、また余命が限られたとしても患者さんや家族にも平等に与えられており、病気からその輝きを取り戻す手伝いをすることが在宅医の仕事であり、在宅医療はそういう大切なことを教えてくれると思う。
細々と粛々と続けていきたいと思う出来事でありました。

著者:いしづかクリニック 
院長 石塚 俊二

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