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西宮市の内科|石塚ファミリークリニック-院長ブログ|23 医師の表情

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23 医師の表情

診察時の医師の表情は患者さんの気持ちに影響するだけでなく治療にも大きく係わる。
医療者には“感情労働”が要求されます。感情労働といっても自身の感情を表現するのではなく、むしろ抑制し、押さえ込むことが課せられてきました。これは医療者が“患者さんの前で感情を出さないほうがよい”という教育を受けている結果でもあります。

 

医師の色々な表情のイメージイラスト

私が大学の研修医の時に、初めての受け持ち患者さんが不幸にも亡くなられた。
医療スタッフでその患者さんのお見送りをした時も、主治医であった私は今でも一語一句覚えている。
その患者さんは私に「先生、研修医頑張ってね」「朝早くから採血ご苦労だけどもう少し練習してね」と言われたこと。
患者さんとの思いが蘇り、息が詰まるほどつらい気持ちであったが、先輩医師からは「研修医は、黙って立って私と同じように振る舞え、また家族には自分から声をかけるな」と言われ会話もないまま最期を見送った。
以前は、このような指導が病院でなされ、大学病院や大規模な総合病院などで診療する医師は、無表情に淡々と話すことが多いので、機械のように冷たく感じられることも多かったと思う。

 

実際に今でも、患者さんが亡くなったとしても”その家族の前などで涙など見せていけない“と教えられ、それが大事であると信じている医療者も多いと思う。
たとえば、「医師がコンピューターの画面ばかり見ていて、自分のほうをちっとも向いてくれない」電子カルテ化が進んで患者さんからこんな不満がしばしば聞かされます。
また、別の不満として医療者に人間としての温かみを感じることができない、冷たさを感じるという不満です。
これらは、感情を表現する、表情を押さえ込むことの弊害に帰依することではないかと思う。
たとえば、患者さんからどんな無理・難題を言われてもそれに対して怒りを表さず、優しく笑顔で対応すること。
どんな急変が起きた緊急事態下でも患者さんの前で慌てたそぶりを見せず冷静に対処すること。
どんな悲しいことがあったとしても、泣いたり、取り乱してはならないことが要求されます。
実際に、病気になった患者さんやその家族が病気になったことに対して怒りの感情を持ちその怒りを医療者などにぶつけてくることも珍しくありません。
医師は科学者として医療を提供することが求められているという思いが強く、どんな状況下でも冷静であり客観的であろうとして、そのために、患者さんからある程度距離を置いて接することが必要であると教育されてきたからである。

 

先日、いつも来院されているおばあちゃんは気分が悪く、普段は午前中に来院されているがその日は夕方に慌てて受診された。ちょうどそのおばあちゃんの順番の直前に在宅患者さんの家族の方から電話があり、数日前に救急搬送されたその患者さんが病院で亡くなられたと連絡を受けた。
その患者さんは終末期であったものの今後の病院での治療方針も決定されていてその治療も受けないまま急変した状態であった。私とは10年以上の診察の関係でゴルフが好きで、よく自分のスコアの話をしてくれて本当に楽しい時間を過ごしていた。そのために私もその患者さんの思いが消せずに、外来のおばちゃんを診察したと思う。
そのおばあちゃんが診察後に点滴室で看護師さんに「先生の顔、なんか変やったね、どうしたんやろ」と少し残念そうに話していましたよと言われた。
おそらく、顔は平静に装っても心はみだれ、それが表情にでてしまい、おばあちゃんに迷惑をかけて十分な診察ができていなかったんだろうと思い悔やんだ。

 

すべての診察で感情を抑圧して表さず機械的な対処で済ませることは、現代の医療を人間的でないものにしている可能性があると思うし、その行為には無理がある。
コミュニケーションで大切なのは情報と感情の表現であると思うし、人のコミュニケーションでは感情を抜きに語ることはできないし、その感情は必ず表情に現れる。
もしかしたら僕は在宅患者さんの死のつらい感情を単に表情を抑えることによって伝わらない、伝えてはいけないとの思いが、おばあちゃんには、僕の表情から違う感情をもったのであろう。

 

対話を大切にした診察風景のイメージイラスト

病気に対して患者さんと医師の双方が表情を交えながらどのような感情をもったかを伝え合い、対話することによって人間的な交流は成り立つ。
医師も表情を通じて感情を伝え、また相手の表情・感情をどう受け取るのかが大切になります。そのことが患者さんと医療者の対話を成立させ、お互いの感情を共有することで人間的に豊かなコミュニケーションが成立し信頼関係を強化することになると思う。
それゆえ医師の表情は診察の一部でもある。そう思い診察すると、医療はもっと人間的なぬくもりのあるものとなることは間違いないと思う。そして医療者は、慢性疾患や障害を抱える患者さんにとってより豊かな人生を送ることに対して少しのサポートができると思います。
表情がすべてを変える。

著者:石塚ファミリークリニック 
院長 石塚 俊二

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