24 在宅診療:訪問看護師のすご技
私は在宅医療に携わって約18年になりますが、在宅医療では、看護師、薬剤師、リハビリ、ヘルパー、ケースワーカーや時には行政などの障害福祉、保健師など医師以外の様々な職種が関わり合い一人の患者さんを支援することになります。
特に訪問診療を受ける患者さんは寝たきりの場合など医療必要度が高い方が多く、看護的な管理がとても重要となります。
そのため、訪問看護師さんは欠かすこととのできない存在であり、医師と連携することでよりよい医療を構築できる最大のパートナーと思っています。
でも、実際に訪問診療の中で看護師さんたちがどんなことをしているか、どういったやりがいがあるか、また医師とどのように連携しているかは患者さんには知られていないことも多いと思います。
今回はこのような実施の現場について少しお話ししたいと思います。
私のようにクリニックに医師が一人しかいない場合は、訪問看護師さんは絶対的存在であります。通常、在宅訪問は、医師の訪問診療と訪問看護の双方の立場からその患者さんの経過をみていきます。
まず、私はできるだけお互いの訪問日が重ならないようにして、両者で経時的に患者さんの状態を観察できるように訪問日を設定します。
この時に訪問看護師さんの凄さを目の当たりにします。
まずは、情報収集の力です。
意外と患者さんやその家族は医師に遠慮して、自身のしんどさやつらさをはっきりと口に出されないかたも多いのです。
私もできる限り色々な表現で患者さんが今、自宅で何を必要としているか、どれくらい苦しいのかなどを尋ねるのですが、気軽に話してくれる時までに時間を要することもあるのです。毎日、訪問している看護師さんには患者さんと強力な信頼関係が築かれており、大切な情報を正直に話されることも多いのです。
先日、癌の終末期の患者さんの介護者である奥様が介護の疲れが強く、患者さんを短期間でも入院(レスパイト入院と呼ぶ)させるか、また終末期には緩和病棟への入院させるかを考え思い悩まれておられることがありました。
私も訪問時にできるだけ“家族の介護は大丈夫ですか”と尋ねてはいましたが、“夫にできるだけのことしてあげたい”と気丈に振る舞っておられましたのでまだ大丈夫だと楽観視してしまいました。しかし、実際、奥様ご本人の精神的、肉体的には悲鳴を上げており入院を相当悩んでおられた様子でした。
担当の訪問看護師さんは前々から気づいていたようで、ある時に“先生、レスパイト入院か緩和病棟への希望が日ごとに強くなっておられますよ”“そろそろ入院も考えてあげてくださいね”とLINEで知らせてくれました。
私は、申し訳なく思い、すぐに奥様に連絡しレスパイト入院の手配を取りました。
この際も看護師さんは、家族に“先生に伝えておきますね”と優しく対応してくれていてスムーズに事が運びました。
もう一つのすご技は患者さんの治療についてです。
例えば痰の吸引や褥瘡の処置など、看護師さんの努力にて症状の改善が得られることが実に多くあります。
以前も、呼吸器疾患を持つ患者さんの家族から“ゼイゼイして苦しそうです。どうしたらよいですか”と診察中に連絡を受けました。
意識状態、血圧、呼吸数などを尋ねてもご家族も慌ててしまってなかなか状態把握が難しく、この状態が緊急を要して入院の必要があるのか判断ができないかったことがありました。すぐに訪問看護師さんに相談し駆けつけてもらい、数回の吸引と水分補給にて、その訪問後に、脱水とそれに伴う喀痰の排出困難で大きな心配はないと報告を受けました。
いつも密に患者さんと接しており普段の状態を知っているので、今何が起こっているのか、緊急性があるのか適格に判断し、家族への説明や医師への報告も完璧にこなし、“必殺仕事人”のようなこの振る舞いには唖然としました。
また、別の機会では、十年以上訪問している患者さんが足に褥瘡を認めていましたが、介護者の母親が褥瘡を作ってしまったのはご自身の介護の責任と考え医師への報告を躊躇されておられました。
しかし、訪問看護師さんは母親からそれを聞きだし、洗浄と軟膏処置で悪化することなく改善させて報告を受けました。
この時もただ感謝するばかりです。
看護師さんと適切に情報共有をすることで良い治療に結びつけられることは在宅医療ではより重要です。
在宅現場では、病院のように医師、看護師の仕事を役割分担して行うのではなく、その患者を自身で診察し判断し治療するための豊富な経験、知識と何より強い意志が必要でその気持ちの高さにこちらの医師側も鼓舞されることが多いのです。
医療は絶対に自分一人ではできません。医師も家族や看護師の人たちの支えがなければ成り立たないのです。
在宅医療の現場はそれが顕著であり、どの人が欠けてもうまくいかないのです。
特に訪問看護師さんの役割は大きく、そこから繰り出されるすご技に負けないように、患者さんの生活が穏やかに過ごせるように、そして私自身のすご技も習得して、看護師さんとお互いに切磋琢磨していきたいと思っています。
著者:いしづかクリニック
院長 石塚 俊二