33 リセット
ゴールデンウイーク中、少し休みをいただいて心をリセットしてこのブログを書いています。
この3年間、新型コロナの影響で社会のすべての分野で変化を強いられました。この病気に直接触れる場である医療は最も大きく変化した業種であると思う。
当院でもこの3年間で診療体制が大きく変化し患者さんへの対応や診察内容などが良いも悪いも変化を強いられました。
外来診察では、事前に連絡を受けその診察内容を伺い、発熱者と非発熱者に振り分け、徹底した予約の時間管理の中で診察を行うことが原則となった。
今までのように当院の主な患者さんの高齢者が自由に来院したいときにクリニックに出向き、時には他の患者さんと楽しく会話をして個々に生きる活力をもらい診察そのものが日常となるような気持や生活の向上につながる生活様式とは違い、一つの病気がすべての人の日常を分断する、刃物で切り裂くような状況で外来受診が続いてきました。
診察する側も常に患者さんにコロナ感染症が潜在性に潜んでいないか、患者さんの知人や家族にまでこの感染症の発症がないかなど、刑事の取り調べのように詳細に無機質な同じ問診を何度も行い診療に当たっていました。
私自身、一体、いつこのパンデミックは収束するのだろうと漠然に思いながら、とにかくこの3年間はやみくもに目の前の診療を継続してきた感覚がありました。しかし、辛く疲弊する毎日でありましたが、医療から社会に目を向ける機会となり、普段は気づくことのできない大切なことも知りました。
例えば、このパンデミックは今まであった社会的基盤の問題点をより浮き彫りにしたということが挙げられます。
その一つは“不平等”という問題である。社会階層によってこの病気のリスクの大きさに驚くほどの差があることを実感した。
例えば、パンデミックでもテレワークできる仕事の患者さんもいれば、できずに感染の危険に常にさらされ、必然的に発症する患者さんもいました。
また医療従事者でも発熱外来を請け負う病院、診療所もあれば、そうでなくそれをむしろ避ける医療機関も存在していました。また、同じ医療従事者でも介護施設や薬局などへの感染症対策の国の補助や援助は十分なものとは言えないことも多く、大きな差が存在していました。
つまり、生活に不可欠で本質的な価値のある仕事に対してもそれに見合う対価が得られず大きな差が生まれている社会であることを、この感染症発症を通じて強く感じてきました。
極端なことを言えば、がんばってもそれが公正に報われない社会や仕事が目の前にあるということ痛切に感じてもいました。しかし強く言えることは、この中でも医療はより厳密に公平であるべきだと思う。
医師は病気で体も心も弱っている人を助けるのが基本ですが、そこに不平等は存在しないと思う。もし、他の職種において不平等により感染症に罹病する患者さんがいるとすれば、医療を通じてその患者さんの治療に全力で当たらなければならないし、最後の救いとなる必要があると思う。そして、健康になられた方は病気の方を思い、支え合って生きていくことが感染症の収束に向かっていける方法の一つでもあり、このことに社会全体が責任を持って助け合う必要があることを強く思いました。
もうひとつ気づいたことは、パンデミックになりみんなが立ち止まざるえない状況になった時、自分のことも知りやすくなるということです。
従来の診察や治療の方法が大きく変わると自分は何をすべきか、何ができるかがより鮮明になってきます。
例えば、診察ではこれまで来院されていた患者さんの訴えや希望を受け身になって聞いていたことでも、従来の方法が変化すると、自分自身が能動的になり個々の患者さんに合わせた治療方針、投薬内容、生活様式などを指し示し最適なゴールへリードしようとする自分に気づくことも多くありました。
このような変化は自分を見つめなおす医師のリセットでもあります。
個人的な考えではあるが、人生では大事な選択肢を持つことが重要であり、それは“どこにいるか”“何をするか”“誰といるか”ということだと思っています。
コロナ渦であり上述するように不合理で不平等が存在する社会においても、自分がどこにいて、誰とどのような医療ができるかを真剣に考え自分をリセットする必要が今回あったと思います。
僕自身、医師生活30年以上で医師生命の後半あたりに差し掛かっているように思うが、これまで医療は心震える仕事であると信じ、それを実感できるから医師となった。
先日も、ある在宅の患者さんの治療において呼吸状態が低下し治療が行き詰っていた。この為、まずは訪問看護師と話し合いその後、夜診後、自宅に往診し介護の両親より本当の両親の思いや希望を聞いて、さらにその翌日に患者さんのお兄さんが医師であるためにお会いして再度、家族全体の意見を伺うようにした。
そうすることで、僕自身の考えもリセットされ新しい治療が生まれてくる。
僕自身だけで最善、最良の医療を考えることは困難でも、患者さんを取り巻く色々な人の考えを組み合わせてつなげていくと、ある瞬間にその患者さんへのオンリーワンの治療が生まれてくることがあり、それによって心が震え、躍る瞬間となる。
いつも思うが、大切な事は“医療は人が作る”とういうことである。人間は弱くも強くもあり、病気の人も、それを診る医療者だって一人で突き抜けて解決することはとても難しいと思う。
みんなで手を携えて一つのことを考え尽くすと必ず人の救いとなる治療が開けると思う。
僕自身に“どこにいるか”“何をするか”“誰といるか”と心に尋ねられたら、“患者さんらと話しをする”ということに尽きる。
加えて、時には心のリセットもしながら。
令和5年5月:いしづかクリニック
院長 石塚 俊二