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西宮市の内科|石塚ファミリークリニック-院長ブログ|37 やさしさへの想像

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37 やさしさへの想像

今回はやさしさについて述べたいと思う。
やさしさという感情は、家庭や仕事などどこにいてもすべての生活において遭遇する言葉で自身が体感したり、表したりする言葉でもある。人はどのようにしてやさしさという利他の心を獲得したとも考えることがあります。
自分とは関わりない、例えば自然災害にあった人たちやウクライナ戦争で傷つき、また貧困に苦しむ人に寄付をしたことがあるという人も多いと思います。
実はこのやさしさという他者を思いやり、助ける習性を持つのは人だけにあると言われています。例えばチンパンジーは、親類縁者は私たちと同じように助けますが、自分とは全く関係ない個体は助けることがないそうです。

 

やさしさへの想像イメージ
では、なぜ人間だけが他者を思いやりやさしくするのか・・・。
アメリカの心理学者であるマイケル・E・マカロ-は進化生物学と慈善の歴史からこの難問に答えをだしています。それは、相手を助ける行為は、自分の利益を提供することで自分の損失につながることがあるが、進化上、人はそのような慈善行為が最終的には一番、自分を守る行為につながってきたという人類学的な進化があると説明しています。
時には人の欲として、その行為は人助けをすることで得の高い人物だと見られたいよこしまな欲求もあると書かれていました。やさしは人類が進化する過程で必要不可欠な手段でもあったと言えます。
しかし一方、やさしさはエゴの押しつけと言われ自分本位で進んでしまうこともあるようです。


何年か前の新聞で豪雨被災地への個人の救援物資が自衛隊の救援活動の妨げになっている記事を読んだことがありました。
一方的なやさしは、時には助けられる側の妨げとなる場合もあると感じました。
またやさしさという言葉も思いやり、愛情、情けなど色々な形で使われることもあります。
仏教では慈悲という言葉があります。苦を抜くことを“慈”といい、“楽”を与えることを“悲”と言われるそうです。
慈悲は人の苦しみや悩みを取り除きそれを解消させるように行動すること、それが“慈”であり、どうしたら人に喜んでもらえるか、工夫し努力して喜ばせ、楽しませるように行動することが“悲”の意味合いもあるようです。


では私の場合を言うと、上述したような難しい読解や理解ではなく、やさしさの羅針盤を挙げると、相手を想像する、相手をより知るということと言えます。特に私の職業である医師は、想像力が豊かでないとできない職種だと思っています。
人が様々な病気を患い苦しんでいる場面に遭遇します。その人にとって何が苦しみなのかは百人百様ですし、同じ人であってもその苦しみも、一刻一刻変化していきます。
例えば、癌患者さんの心理状態も3つの段階があります。
まずは衝撃段階(ショック、混乱)で続いて不安定段階(不安、落ち込み)となり、最後は適応段階(再出発)となります。
末期の終末期での適応段階と言っても自然にその病気と向き合っているわけではありません。
その病気を受け止めるためにそれこそ血のにじむような心の葛藤と努力があるのです。また、診察ごとに患者さんの痛みや苦しみの場所も変化し、その心の中に入っていかなくては治療ができないということです。その為には常に“前回はこの痛みを訴えたけど、この痛みでどれぐらい体が楽になり、食事ができて、家族との会話ができるようになっているか、また痛みが改善されたからこそ現れてきた身体症状はないかなど、痛みというキーワードからその患者さんに関連する状況をくまなく想像することが必要であると思います。
治療の決めつけは危険で患者さんの心の叫びに沿わないことも多い。想像力がなによりも重要でこれがやさしさの核心部分であると私は思って言います。
もちろん、その想像力は常に努力が求められるし、失敗の連続、反省の連続でもあります。泥臭い言い方ですが、形のないゴールへの果てしない努力の道であると言えます。しかし、ほんのわずかでも自身の想像力が相手の気持ちに伝わったと感じた時は、物やお金などで得られたことと比べることができないぐらい人としての最高の幸福を感じることになると思う。
結局のところやさしは何か特別なことを思い浮かべて実践することではなく、日頃の自身に向き合う気持ちを高めることが、他者への想像力に広がり、やさしさ、思いやり、愛情、情け、慈悲という感情が作られると思う。想像力は個人だけではなく社会にも通じることがあると思う。


平和な世界イメージイラスト私は会社経営や会社員になったことはないが、現KDDI、日本航空の再建に携わった企業家の稲盛和夫さんは、仕事の判断に迷いがでたときには”利他の心“で考えているかと自信に問いながら決して”我利“にならないように行動したからこそ会社が存続していると言われていました。
まさに、”利他の心“を持てるように相手を知る想像力が必要であると思う。
今、日本はいつ戦争が起きておかしくないような世界情勢に立たされている。また、対中国、対韓国などアジアの中でも対立することが多くなってきているように思う。
本当に次の、またその次の世代へ平和な世界が引き継がれることを願うなら、一人一人が他者への想像力が膨らまして相手を知ればおのずと人類は生き延びられるのではないかと大袈裟ではあるが真剣に思っています。
だって、やさしさは誰もが心掛けることができるのですから。

 

令和5年9月:石塚ファミリークリニック 
院長 石塚 俊二

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