39 不確実なこと
人は生きていくときに必ず不確実なことに遭遇する。
医療でも選択された治療が確実であると思われても逆に突然合併症が併発し病状が悪化する場合がありその選択が不確実であったとういこともある。逆に、この治療は確実性をもってそれほど期待できないのではと思ったが奏功することもしばしばみられる。
また何日も考え抜いた後に選んだ治療がうまくいかず、検査結果よりすぐに理解して選択した治療が確実に改善していく場合もある。まさに、医療も不確実なことが起こってしまうことも現実でありそこを確実にするために知識と経験を積んでいく。
では実際に不確実とは?
不確実性とは、将来の出来事には予測ができない性質が備わっているということと解釈されている。そして、この不確実性がさまざまなリスクを生み出すもととなっている。
どんなに事前に準備していても、時には予想外の出来事は起きてしまい、その中で期待とは反対の方向に進んでしまうこともある。医療でも進む出来事を100%予想できるとは思っていないし、事前に起こり得る結果をすべて考えて治療に当たり、予想外に対してのリスクヘッジも備えて臨んではいるのだが不確実性が勝ってしまうことがある。
この事を解決するための一つのキーワードが存在していると思う。それは不確実性とういものをちゃんと理解していないことも理由の一つに挙げられると思う。
現代の治療は、標準治療と言う言葉が代表されるように疾患の原因がすべてパターン化しているので、明確な結果には明確な原因があるはずだと考えてしまう傾向がある。しかし、実際には治療を受けるのは人であって、その個人の環境や性格など目に見えない内面の要素をもち、それはランダム性でありまったくの偶然の出来事の経過や結果が左右されるということにあまり関心をもたれないことが多い。
治療が上手くいかなくなるとそれを説明し得る目に見える原因を探し結論づけてしまう。しかし、実はこのランダム性に含まれる要素をうまく医療に取り入れることが重要であると思う。
これまで、患者さんと接し、確実に診断をしてその最善の標準治療を提案した時に、患者さんがどういう訳かその治療を受ける気がしない、その治療が上手くいかない気がすると言われることが稀にあった。
このような時には、その治療がほぼ100%に近い治癒率であっても、その経過が長引いたり、時には経過中に合併症が併発し治療が中断されたり、思わぬ薬剤の副作用が出現したりして治療が上手くいかないことも時にあった。
逆に、集中治療室などでの重症患者さんの治療が難しく、治療に難航しているときでも、患者さんから“なにがなんでも治してみせる、今度の治療で良くなる気がする”など患者さんより治療の確証を超えた言葉が後押ししているときには、医師の予想をはるかに超えた改善でみるみるうちに良くなる患者さんを経験したこともある。
おそらく、医療において、適時、適正な判断には医師と患者さんの理性と情動の両方が満足した時に最善の治療が行われるのではと実感している。例えば、日常生活においてもなんとなくこの事には乗る気がしないとか、明日はここに行きたくないとかいうこともある。虫の知らせというように体から発する信号に沿ったことのほうが上手くいくこともある。
この示された体のうちから発する信号を正確にキャッチすることが医療においても重要な選択肢の一つとなると考えられる。実際、人が生きて行く中で意思決定に理性だけではなく感情も必要で、脳科学者のアントニオ・ダマシオさんは、このような体から発する信号を“ソマティック・マーカー”と呼び、その重要性を唱えています。
医療において、治療の選択が迫られるとき、例えば、癌患者の治療はすべてステージ分類され、生存率が何%など示され、それに従っての標準治療が行われるのが一般的であるが、この場合も患者さんがその説明を受け、現在おかれている環境や家族、そして自身の生きがいなどを考え抜きそこから感じる感情を医師に話し、医師も治療後の患者さんの姿を想像し、その患者さんの言葉から沸き起こる医師自身の感情をお互いにぶつけ合いながら感情を大切にして理性的に判断を失わず治療に向かっていくことが医師と患者さんの2人にとってもっとも幸せな結果につながるのではと思う。
令和5年11月:いしづかクリニック
院長 石塚 俊二